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承認欲求の考察

承認欲求をキーワードに、人間心理や社会を考察します。

イタリア新市長とイギリスのEU離脱 その4

前回ポピュリズムだと非難することは、「愚かな君たちには正しい判断はできないよ」「悪い奴が騙そうとしているぞ」という二つの主張に異ならず、一番重要なポイントのなぜそちらを選ぶべきかの説明がないがしろにされていることを述べました。

これは「お前は駄目な奴だ」「あの人はひどい人だ」と主張することで、それに比べて自分はOKだと安心しようと試みる承認欲求の構図と同一です。

承認欲求が強い時には自分の信じたいことのみを受け入れるために、世界と膜で遮られた状態になること、「我々」と「奴ら」という単純な二項対立の構図で捉えること、しばしば攻撃的になることはこれまでこのブログで何度も述べてきたことです。

ここで注意すべきは、「ほらご覧、エリートが悪で民衆は正義だ」という思考も同じく単純な二項対立の構図であることです。
そもそもエリートにせよ民衆にせよ、一枚岩ではありません。従って「民衆が正しい」と言うのは、「エリートが正しい」というのと同一の誤りです。

民衆が正しいと考える人は、民衆は大多数であり、その各自が日々の生活の経験から同じ結論に辿り着いたのだから正しいのだと考えます。

しかし思考がいかに単純化され日々変化する事実とのギャップを生じるか、同調圧力がいかに強力か、このブログと長くお付き合いいだたいている方ならご存じでしょう。
また大多数のようで、実は少数の人間からなるグループが揃えて大声を出しているだけのケースが多いことも、少しずつ知られてきています。

私たちは自分で考えているようで、実はただ提示される思考モデルに従っていることの方が多いのです。従って、同じ結論に辿り着いたからそれが正しいという訳ではありません。

逆にエリートが正しいと考える人は、単純で誘導されやすい大衆と異なり、エリートは複雑な世界を理解する知性を養っていると考えます。

しかしすべてのエリートが知性の面で優れている訳ではありません。複雑な世界を知ろうと真摯に力を注いでいるエリートもいれば、ひたすら人を操作するコミュニケーション能力を磨くエリートも存在します。またエリートの家柄に生まれたという理由だけでその地位にある人もいます。

承認欲求は序列をつけたがり、ヒキ学者的な人よりもグル商人的な人が上に立つことは決して珍しいことではありません(注)。知性を損得勘定に使えば、自分一人が反対しても状況が変わる訳ではなく出世に響くだけという結論になります。
結局エリートも大衆と同じく、声の大きな一部に従う場合が多いと言えるでしょう。

民衆だエリートだと箱に区分するのではなく、何を語っているのかが重要です。
恐怖や怒りや不安、あるいは希望を惹起する単純な短いフレーズの応酬は、議論ではありません。
同じく、専門用語や有名な学者の名前を多用するばかりで肝心な内容は分からないような論説も、議論には役立ちません。

最後にEUに関する話に戻ります。
実はEU懐疑派の中には「EUは失敗だ、離脱しかない」と考える人ばかりではなく、「今のあり方のEUでは支持できない」と考える人も多いのです。例えばイタリアの五つ星ムーブメントや、スペインのポデモスも後者です。

従ってイギリスが離脱しても、EUがもっと透明で民主的な組織に早急に変化する姿勢を見せるならば、今後も維持は可能です。変化の過程で金融システムが崩れるため一時的には不安定になるでしょうが、少しずつ安定を取り戻すでしょう。

しかしEU上層部が自発的に透明で民主的な組織に変化させることは、上層部の入れ替えが起こらない限り期待薄かもしれません。

承認欲求の強い人は過ちを認めることは困難で、ごまかしたり逆ギレする傾向があります。具体的な行動を非難されているのに、それを自分という人間を非難されていると捉えてしまうためです。 

そこでEUが離脱を選択したイギリスを敵視してスコットランドの独立を煽りつつ、これ以上裏切り者を出さないように各国を締め付けるという方向に進む可能性もあります。

これは部活、PTA、町内会、趣味のサークルなど人が集まる場で起こり得ることと同じであり、政治情勢や権力の内幕を知らずとも想像可能なことです。

例えば中学の部活の練習が酷で、勉強する余裕がないと不満に思う部員が増える時に、部員達の考えを聞き取り練習量を減らす方向に転換するならば、これ以上の退部者は抑えることができるでしょう。

しかし部活を退部した人の悪口を広め学校で孤立させ、退部したら痛い目にあうと思わせることで他の部員に退部の決断を躊躇させるという戦略を採用するケースも少なくありません。

他者を支配しようとする力と支配から自由になろうとする力のせめぎ合いです。

(注)このネーミングについてはこちらをお読み下さい。
glicine394.hatenablog.com