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承認欲求の考察

承認欲求をキーワードに、人間心理や社会を考察します。

イタリア新市長とイギリスのEU離脱 その2

時事

これをお読みになる方はイギリスのEU離脱の方により関心があることは承知しています。イタリアのことを書くのは、他のメディアに書かれないEUが嫌われる理由を説明しやすいからです。
前回はイタリアではEUに対する期待は大きかったというところまで書きました。

時の経過とともに、EUは北ヨーロッパ諸政府よりもイタリア政府に近い振る舞いをするように感じる人が増えました。仲間の、仲間による、仲間のための政治に、一般市民は利用されるだけという印象です。
なぜそう感じさせるのか、前回挙げたイタリアの問題と対応させて見てみましょう。

EUは細かい法規が非常に多く(A)、いつの間にか移民受け入れなど市民生活に重要な決定が行われます(B)。その決定はしばしば、ある特定のグループの利益を目指すもののように見えます(C)。というのは、EUから国内政治への介入は、セーフティネットの整備など市民の生活を向上させる方向ではないからです(D)。

ひとつ実例を挙げます。EUとイタリア酪農家の牛乳戦争です。
昨年ようやく廃止されましたが、それまで長年にわたって牛乳の生産調整が定められていました。イタリアに割り当てられた量は国内需要よりもずっと少なく、わざわざ生産量を減らした上で牛乳を他国から輸入するか、生産調整を破って罰金を払わされるかという状態が続きました。

やっと生産調整が廃止されてほっとしたのもつかの間、EUは今度は「チーズやヨーグルトの生産には粉ミルクは使用してはならない旨を定めた1974年の法律を廃止しろ、2カ月以内にやらないと罰金だ」と通告しました。

ちなみにこの法律は、粉ミルクを使用した海外のチーズがイタリア国内に流通することは制限しません。従って自由貿易を妨げるものではありません。イタリア産というブランドイメージを守るために、一定の品質を維持することが目的であるからです。

このEUの決定は、酪農家のみならずチーズ製造業者や消費者からもブーイングが多く、ネット上でも多くの反対署名が集まりました。「悪いのはドイツで、自分達じゃない」という口実をよく使うイタリア政府ですが、あまりの反対の声にこの法律を廃止する意思はないことをEUに通達しました(注1)。

他にもチョコレートやワインを巡る品質低下を奨励するような決定や、緊縮財政を押し付ける一方で銀行救済は許すことなどから、結局EUは大企業と銀行家の代理人であって、一般市民の味方ではないと感じる人が増えています。

これに対するリアクションは二つあります。ひとつは自分たちの伝統を壊すなという方向、もうひとつは支配されたくないという方向です。
この二つの方向に対応するように、イタリアにはEU懐疑派の政党が二種類存在します。

ひとつは北部同盟とイタリアの兄弟で、この二つの政党はどちらもルペンさんが率いるフランスの国民戦線やアメリカのトランプさんに親しみを持つ右派です。

そしてもう一つが前回言及した五つ星ムーブメント(M5S)で、こちらはこれまで移民排斥を叫んだことはありません。彼らの主張の柱は政治の民主化と透明化、負の所得税タイプのベーシックインカム(BI)導入です(注2)。これは前回述べたような大樹の陰に寄る必要性を無くすことと言い換えることができます。

EU懐疑派はしばしば「移民に反対するなんてレイシストだ」と非難されます。しかしM5Sは右派のような主張はしないため、このレッテルを貼ることができません。その代わりに使用されるのが「危険なポピュリストだ」というレッテルです。

次回はこのレッテルの意味とイギリス離脱に関する今後について考察します。

(注1)この問題が生じたのは昨夏です。今回の記事を書くにあたり検索したのですが、結局イタリア政府が罰金を支払ったのか、それともEUが正式に撤回を決定したのか結論を知ることができませんでした。これも(B)の不透明さを示す例かもしれません。

(注2)もっともM5Sの提案するBIは、「働かざるもの喰うべからず」的な思想が残っていること、個人ではなく所帯単位であることから、実際は生活保護制度に近いものです。