承認欲求の考察

承認欲求をキーワードに、人間心理や社会を考察します。

イタリア新市長とイギリスのEU離脱 その1

脱線ついでに、この一週間のヨーロッパの大きな動きに関して考察しておきます。日曜日のイタリア地方選挙でのローマとトリノの新市長誕生と木曜日の国民投票によるイギリスのEU離脱についてです。

EU離脱を求めるのは移民を排斥したいナショナリストか、移民に職を奪われることを恐れた社会階層の低い人々だという論調が多いことから、ヨーロッパは極右化していると考える人も少なくないでしょう。

しかし以前述べた他者を支配しようとする力と支配から自由になろうとする力のせめぎ合いという視点からは、全く別の風景が見えてきます。
それは一見遠い欧州の話ながら、支配に関する問題という点で毒親問題とも通貨の問題とも地続きです。

glicine394.hatenablog.com

ローマとトリノ新市長は五つ星ムーブメント(M5S)から立候補して当選しました(注1)。M5SはイギリスでEU離脱運動を先導したイギリス独立党(UKIP)とヨーロッパ議会で同一会派を組んでいます。

それでは今週出たこの二つの投票の結果は、マスメディアで言われるように、アメリカのトランプさんの躍進と共に危険なポピュリストの台頭を示すものなのでしょうか。
イタリアの例を知れば、それがいかに歪曲した見方であるか理解できるでしょう。

イタリアではEUに対する期待は非常に大きいものでした。EUになれば北ヨーロッパのスタンダードが導入されるのではないか、つまり政治の透明化による汚職とマフィアの絶滅及び他国並の社会保障が得られるのではないかと期待する人は少なくありませんでした。
その期待が生じたのは例えばこのような現状があるからです。

A イタリアは細かい法規が多く、また頻繁に改変されます。あまりに多いためにお互いが矛盾する場合も少なくありません。それは施行する側のさじ加減を可能にします。

B 公の決定のプロセスや決定事項が市民には見えにくいため、後になって知ることが少なくありません。例えば公共工事は入札によらないことが多く、たとえ入札が実施されても公示から入札までがあまりに短期で、実際は事前に情報を知る企業しか参加できない場合があります。

C 公務員になるには成績よりもコネが大切です。大学に同じ名字の教授が多いのは彼らが親戚だからです(注2)。例えば市が主催するイベントに呼ばれるバンドすらコネが必要です。ひどい場合はコネすらあれば、演奏しているふりでも構いません。

D イタリアはギリシャと共に、生活保護制度が存在しない国です(失業保険と障がい年金はあります)。なお収入に対する税金の比率は社会保障が充実している北欧並です。

このような状況で運に恵まれない市民がとる選択は、自力で何とか苦闘するか、大樹の陰に寄るかのどちらかです。
更に前者はイタリアに残るか国外に脱出するかという選択、後者は誰に頼るか、政党かマフィアかその他の共同体かという選択になります。

その他の共同体とは教会であったり、労働組合であったり、有力な親類や友人であったり、移民ならば同国出身者の集団を指します。
なおこれらの大樹はそれぞれが対立するものではなく、しばしば協力関係にあります。

それでは EUのお陰で状況は改善されたのでしょうか。
次回に続きます。

(注1)M5Sは日本のメディアでは五つ星運動と訳されていますが、汚職にまみれた既成政党に対して「いい加減にしろ!」と言いたい市民がネットに結集して短期間に大きくなったので、敢えてムーブメントと訳しました。

どちらの市長も若くて美しい女性であることから、日本でよくあるようにタレント候補が票を集めたケースと誤解する人がいますが、この選挙以前は彼女たちは世間に知られていませんでした。イタリア国内では彼女たちの勝利は、現首相と彼の政党への批判票が集まったからだと考えられています。

(注2)この本に詳しいです。
ゲームをするサル―進化生物学からみた「えこひいき」(ネポチズム)の起源