承認欲求の考察

承認欲求をキーワードに、人間心理や社会を考察します。

なぜ嘘をつくのか その1

前回グル商人のラーメンストーリーを創作しましたが、今回はこれに焦点を当てます。グル商人のコミュニケーションには嘘が混ざることが少なくありません。なぜ嘘をつくのでしょうか。

すぐに思いつく理由は、嘘をつくことで利益が得られることです。
前回の喩えで言えば、嘘のストーリーによって人々の注目を集め集客する、ラーメン一杯あたりの利益率を大きくするという二つの効果を導きます。嘘は彼のラーメン屋の成効に重要な役割を果たします。

それでは問いを逆転してみます。なぜ他の三者は嘘をつかないのでしょうか。ラーメン屋を繁盛させたいのは彼らも同じでしょう。

ヒキ学者の場合は何よりも嘘で集客する意味が理解し難いと思われます。彼はラーメンの味に鋭い人を探し求めています。ラーメンの作り手の過去や師匠の謎の老人は全く不要な情報です。むしろその影響で肝心の味に対する評価が変わることを危惧します。

デキ上司は嘘での集客の利益は理解できます。しかし客にリピーターになってほしいと願っており、嘘が介在すれば客との信頼関係が築けないと感じます。またバレないか心配することのストレスや罪悪感を考えたら、はじめから正直に営業する方がましだと考えます。

エア軍師は平気で嘘をつくことがあります。但しそれは小さな嘘です。コミュニケーション能力に自信がないために、壮大な嘘をつく度胸はありません。しかも彼の嘘はしばしば相手に見破られてしまいます。

以上から、嘘をつかないのは以下の理由があると考えられます。
1 嘘で得られる利益よりも大切なものがある
2 信頼関係を損なう、罪悪感
3 バレるかもしれないというストレス
4 度胸やテクニックがない
これをグル商人はどうやってクリアするのでしょうか。順次見ていきましょう。

グル商人は承認欲求が強いタイプです。他者に一目置かれることで自分はOKであると信じることが他に優先します。
彼は自分の嘘を信じる人を内心バカにします。嘘を信じさせることは自分の圧倒的な優位性の証明でもあるのです。また嘘によって大金や人々の尊敬など他者が欲しがるものを獲得することも、自分はすごいと信じることに寄与します。
従って1は障害になりません。

2に関しても同様です。信頼を得ることに意味があるのは、それが金や力を手に入れる手段であるからにすぎません。承認欲求が強いと自分に興味が集中し、他者はネタにすぎなくなります。信頼に基づく深い人間関係をそもそも希求していないのです。そのため嘘についての罪悪感も感じません。

加えてグル商人は高いコミュニケーション能力を持ちます。彼のコミュニケーションは、他者の感情を操作することで成り立ちます。相手は承認されて嬉しい気持ちになり、グル商人を信頼できる好ましい人だと認識することが少なくありません。それは嘘にまみれた関係にもかかわらず彼に「自分も相手も望む良い人間関係だ」と強弁することを可能にします。

3に関しては、彼はストレスをスリルと読み替えます。
承認欲求が強くなると、複雑な世界を単純化するようになることに関しては過去に考察しました。膜がかかった状態となり、世界の刻々と変化する微妙な味わいを感じることはできません。それは実物の川を川という漢字に置き換えるようなものです。その状態では彼は線の形と太さをを味わうしかありません。
そのため承認欲求が強くなると、感情の強い刺激を求めるようになります。その状態では、嘘はバレるかもしれないというスリルを楽しむゲームになります。

4に関してはグル商人は自分のコミュニケーション能力に自信をもっており、顔色を変えずに壮大な嘘をつくことができます。嘘は大きいほどバレにくい傾向があります。小さな嘘はほぼ誰にでも経験があっても、大嘘をつくことは経験則から離れ想像し難くなるためです。

グル商人の嘘が他者にバレることは決して稀ではありません。思考の単純化のせいで嘘もパターン化すること、自分の優位性を過信しているため細かい詰めが甘いことという二つの弱点があるためです。
前回のラーメンストーリーを例にすれば、けなげな自分、謎の老人というのはドラマや漫画で手垢のついたパターンです。老人の年齢や遺言の「ターン」という言葉遣いも胡散臭さ満載で、真実と思わせるには詰めが甘いと言えるでしょう。

嘘がバレるとグル商人はどう行動するでしょうか。
彼は自分がゲームに負けることを予定しておらず、もしもバレたら別の嘘を重ねて延々とゲームを続けようとします。
「そんなことを言ってない、あなたの記憶違いでしょう」とシラを切ってごまかすこともあります。「あれは取材に来た記者が勝手に書いたのだ、自分も迷惑しており被害者だ」と他人に罪をなすりつけることもあります。
彼の中では嘘がバレるイコール相手の方が優れているとなってしまうために、せめて序列を曖昧にしておこうとします。自分がOKであると信じたいという承認欲求のために、自分は負けたと思いたくないのです。

それができず真実を突きつけられた場合は、逆切れして相手を威嚇する行動に移行する場合が少なくありません。戦略を替えて相手を支配することで自分は相手よりも上であることを確認しようとします。

次回は誰でも経験があるような些細な嘘について考察します。

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