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承認欲求の考察

承認欲求をキーワードに、人間心理や社会を考察します。

ラーメン屋のたとえ

コミュニケーション

前回からの続きです。今回は四つの方向性をラーメン屋に喩えて考えてみましょう。

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ヒキ学者は極度のラーメン好きで長年試作を続けてきましたが、そのうち究極のうまいラーメンを作り出す方法を見出しました。このうまさを人にも知らせたいというのがラーメン屋をはじめた動機です。
しかし彼はラーメンの味のことで頭が一杯で、店舗の立地、内装、広告などの重要性には気が回りません。自分の作るラーメンの価値に自信があるので、値段は高めです。彼は究極のラーメンのうまさを分かち合うために、ひたすら違いが分かる客を待ち侘びます。

デキ上司がラーメン屋を開くならば、大勢のお客さんが満足することが望みです。店の立地や内装、広告などに手抜かりはありません。メニューは多く値段も手頃です。商売であるからには当然採算も考えています。接客にも気を配っており、バランスのとれた店と言えるでしょう。

グル商人のラーメン屋は敷居の高い店です。まず特別のストーリーが存在します。例えば以下のようなものです。

   一流商社に勤めていたグル雄が離職したのは、難病の妻の介護のためだった。しかし介護の甲斐もなく数年後最愛の妻は世を去り、ひとり残された彼は生きる意味を見失い死に場所を求めて旅に出た。こうして訪れたある地の岬のそばの寂れた店で、グル雄は一杯のラーメンに出会った。

張り詰めた緊張を溶かす湯気の香り。
麺の舌触りに全身が歓喜する。
スープを飲み干しながら溢れる涙。

そして彼は再び生きる決心をした。

その場で弟子入りを申し込むと師匠は静かに言った。「お前がくる日を待っていたよ」
その後十年にわたる厳しい修行を耐えたグル雄に「これ以上教えることはない、次はお前のターンだ」と言い残し、師匠は安らかに120年の生涯を閉じた。
こうしてグル雄は東京に戻ってきた。

生の息吹を与えるいのちのラーメン。一日30杯限定。
これを口にできるあなたは幸運だ。

感動的なストーリーの創作には理由があります。客はラーメンを味わうことよりも「遂にあの店のラーメンを食べた」と他者に自慢するために金を払うことをグル商人はよく熟知しているのです。こうして非常に高い値段を付けることができます。厨房にはヒキ学者タイプを安月給で働かせます。実は彼の店を乗っ取り場所を移動してリニュアールしただけであることを他者は知りません。

最後にエア軍師です。彼はラーメン屋をオープンすることを思い立ったのは、一国一城の主になりたいと思ったからかもしれません。あるいは店主として作務衣を着て頭に手拭いを巻いている自分の姿がイケてると思ったからかもしれません。
まずは調査だとあちこちのラーメン屋を食べ歩き、「ここはスープの味にコクが欠ける」「この店のチャーシューは薄い」などと心の中で批評します。こうしていつまでも食べ歩きを続け、ラーメン屋のオープンには至らない可能性が高いでしょう。
あるいは食べ歩くうちにグル商人に入れ込み、グルラーメンのフランチャイズ店開店のために大枚をはたくかもしれません。

成熟した資本主義社会で経済的に一番成功するのはグル商人のラーメン屋だと思われます。多くの店が存在する中から自分の店が注目され、行きたいと思わせるには商品自体よりもそれに付随するストーリーが重要だと考える人は決して少なくありません。

客の側としても、自分はすごい店に行った、イコール自分はすごいと承認欲求を満足することができます。SNSの登場により自己顕示の機会が飛躍的に増加した現代は、その傾向に拍車がかかります。「ラーメンを食べに行き、おいしくて満足しました」と書くよりも、店のストーリーを添えて「三週間前から予約して遂に味わった」と書く方が話のネタとしても美味しいでしょう。その場合店を褒める可能性が非常に高く、更なる集客へと繋がります。

そしてこのような話題性のある店に慣れてしまうと、デキ上司のラーメン屋は退屈な店に映ります。
グルラーメンの繁盛を見習って個性とストーリー性のある後発店が乱立し、やがてその間で生き残りを賭けた価格競争が生じます。こうしていつの間にかデキラーメンのような真っ当なラーメン屋ですら苦戦することになります。ヒキ学者の店は言うまでもありません。