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承認欲求の考察

承認欲求をキーワードに、人間心理や社会を考察します。

序列 その2 社会的役割

序列

人間の優劣のランク付けとしての序列が社会に存在するかどうかを考察する第二回目です。

人間社会で生存する上で、誰もが何らかの役割を持つことがあります。それは父親や子供など家族としての役割だったり、警察官や教師など職業であったり、社長やPTA会長など組織内での役割であったりします。

このうち特に組織内での役割、つまり役職は、タテ型の指揮命令系統をもっています。また親子の関係も親は子供の養育義務を果たすために子供を指導監督します。公務員は公権力を行使します。
このような役割に基づく権力が個人の権力であると誤解されることがあります。そして役割と人間の優劣の序列と混同します。

例えば社長と係長では誰もが社長が上だと考えます。これは組織の役割の相違です。
社長は会社の経営責任者としての役割を、係長は係の責任者としての役割を負っており、責任範囲に大きな差があります。その責任を全うするために社長には係長よりも大きな決定権を持ちます。
しかし社長は上というショートカットが成立し、自分は社長なのだから係長のあいつよりも偉いのだと、人間としての序列と取り違える場合があります。

序列を作り出したい背景に承認欲求があることは前回述べました。多くの人は役割よりも序列を求めます。なぜなら役割においては権力はその役に限定されたものですが、序列であればその限定が外れるからです。

いくら部長でも部下に対して休日に自宅の引越しの手伝いをしろとは命令できません。しかし序列だと感じれば、部長だから偉い、偉いから下の者を従わせてよいと解釈することが可能になります。そのため序列であることを信じたい状態、つまり恣意的な誤解として役割と序列を混同する場合も多く見られます。

休日に引越しを手伝えと命令された場合、当然部下は会社業務と関係ないと断ることができます。しかし部下も役職と序列を混同していればそれは困難になります。
また混同していない社員でも、部長の承認欲求の強さを感じ取り、会社での立場が悪くなるのを恐れて断り辛いかもしれません。となると社員は内心は立腹していても、外見的には序列が存在するのと変わりありません。その結果部長は「やはり俺は偉いんだ」と承認欲求を満たすことができます。

引越しの手伝いというのは極端な例です。そのような明らさまな序列に基づく権力行使が起こるのは、同調圧力により序列と役職の混同が広くメンバーに行き渡っている閉じた組織でしょう。
多くの会社組織では序列の押し付けはもっと職務と紛らわしい形で為されます。
例えば部下の失敗に対して人格否定を伴う叱責を行う、気に入らない部下の雑用を増やす、必要な伝達を特定の部下に対してのみ怠るなどです。

承認欲求を満たすことを目的に役職に就こうとする人が存在します。責任を伴う決断、業務の進捗状況の管理、部下の教育など管理職としての役割よりも、肩書きに関心があります。つまり自分は優れた人間だと他者に示すことが目的です。

承認欲求が強い状態では、他者は自分の優位を示すためのネタに過ぎなくなります。従って部下の業績を横取りしたり、自分の失敗を部下のせいにしたり、役職の責任を全うすることは二の次になることがあります。
そのために多くの部下に嫌われると、自分はだめな人間かもしれないという不安が生じますがそれを直視することはできません。そこで益々自分はOKだと信じるために、人よりも上に立っている自分は偉いと序列に縋る悪循環が生じます。

教師やカウンセラーなどの職業も、承認欲求が強くなると他人を従わせることが目的となることがあります。他人をコントロールしているという権力の実感が、自分はすごいと信じることを可能にするからです。しかしそうなると生徒の教育やクライエントの問題解決という業務の目的は達成が不可能になり、さらに生徒やクライエントに対して取り返しのつかない被害を与える可能性すらあります。

以上のように、社会的役割と人間の優劣としての序列は異なるものであり、相反するベクトルを持ちます。近年パワーハラスメント(パワハラ)としてこれらを混同することの違法性は社会に認識されつつあります。

しかしその混同は未だ少なくありません。大きな責任を持つことのプレッシャーを避けることを選んで昇級を求めない社員を陰で「万年係長」と揶揄してバカにするような風潮はその例です。そこにはあたかも役職が人間の優劣に比例するかのような誤解があります。正社員が派遣社員を劣った人間だと見做すことも同様です。
このような混同があると、昇級できない自分、正社員になれない自分はだめな人間かもしれないという不安が生じます。このメカニズムは承認欲求の呪縛として過去に述べました。

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